カルチャーショックとカウンセリング
海外生活で自分が変わったと感じる理由
By Junko Tomoe, メンタルヘルスカウンセラー
海外生活を経験すると、「自分が変わった」と感じる人は少なくありません。異文化の中で暮らすことは、文化の違いを知るだけではなく、自分自身の価値観やアイデンティティを見つめ直す経験にもなります。
海外生活の中で出会うさまざまな考え方や社会の仕組みは、それまで当たり前だと思っていた感覚を揺さぶることがあります。そのため、多くの人が海外経験を通して、自分自身の感じ方や世界の見方が変化していくことを実感します。
日本の常識が揺らぐ瞬間
海外生活の中で、多くの人が強いカルチャーショックを経験します。それまで疑問に思っていなかった社会のルールや価値観が、突然大きなテーマとして浮かび上がることがあるからです。
日本では自然に受け入れられていることが、別の文化ではまったく異なる形で理解されていることもあります。そのため、海外生活の中で、「これまで当たり前だと思っていたことは、本当に当たり前なのだろうか」と考えるようになる人も少なくありません。
ときには、日本社会の習慣やコミュニケーションのあり方を批判的に感じることもあるでしょう。しかしこうしたカルチャーショックによる視点の変化は、多くの場合、自分自身の価値観が広がっているプロセスでもあります。
二つの文化の間に立つ感覚
海外生活が長くなると、自分の中に二つの視点が生まれることがあります。一つは、自分が育ってきた文化の視点。もう一つは、新しく経験した文化の視点です。この二つの視点を持つようになると、帰国したときに小さな違和感を感じることがあります。以前は自然だった人間関係や社会の空気が、どこか遠く感じられることもあります。
このような感覚は、海外経験のある人がよく語るものです。それは単なる文化の違いというよりも、文化とアイデンティティの関係の変化として現れることが多いと言えるでしょう。
もともとの価値観が強まることもある
海外経験によるカルチャーショックで、人の価値観を変えることもありますが、もともと持っていた感覚を強めることもあります。
例えば、もともと日本社会の価値観に完全には馴染んでいないと感じていた人にとっては、海外生活がその感覚をよりはっきりとしたものにすることがあります。
個人の価値観を重視する考え方や、よりモダンなライフスタイルに自然と親和性を感じていた人にとっては、海外での経験がその感覚をさらに強めることがあります。そのため、帰国したときに感じる社会とのギャップは、以前よりも大きく感じられることがあります。
Third Culture Identity(第三文化的アイデンティティ)
海外で生活した経験を持つ人の中には、「自分はどの文化にも完全には属していないように感じる」という感覚を持つ人もいます。その感覚は、ときに孤独として感じられることもあります。
異文化心理学や社会学では、このような経験は 「Third Culture Identity(第三文化的アイデンティティ)」 と関連するものとして語られることがあります(Pollock & Van Reken, 2009)。これは Third Culture Kids(TCK)という概念とも関係しています。
もともとは外交官や国際ビジネス家庭など、複数の文化圏で育った人々の経験を説明するために使われた概念ですが、近年では海外生活や国際的な環境の中で暮らす人々にも当てはまると考えられています。
一つの文化の中だけで形成されるアイデンティティとは異なり、複数の文化の視点を持ちながら世界を見る感覚とも言えるでしょう。また、自分の拠り所を外側ではなく内側に見出していくプロセスでもあると言えるでしょう。
ご参考:
Pollock, D. C., & Van Reken, R. E. Third Culture Kids: Growing Up Among Worldshttps://www.amazon.com/Third-Culture-Kids-Growing-Revised/dp/1857885252
Third Culture Kid(概念説明)https://en.wikipedia.org/wiki/Third_culture_kid
私自身の海外生活の経験
私自身、外国人のパートナーとの生活を経験してきました。それ以前には、複数の国や地域を行き来しながら暮らすライフスタイルを送っており、ヨーロッパ、北米(アメリカ・カナダ)、東南アジア、オセアニアなど、いくつかの文化圏で生活する機会がありました。
その土地を短く訪れる「旅行」ではなく、一定期間その場所で生活する形で文化に触れてきた経験から、海外生活の中で多くの人が感じるカルチャーショックや価値観の揺らぎについて、実感を持って理解できる部分があると感じています。
統合というプロセス
海外経験の中で生まれるこうした視点の変化は、ときに自分のアイデンティティを揺さぶることがあります。しかし、そのプロセスは必ずしも否定的なものではありません。
異なる文化や価値観に触れることで、人はそれまでの自分の考え方を見直すことになります。そしてその経験を通して、複数の視点を自分の中で整理しながら、新しい理解を形作っていきます。
このような 統合(integration)のプロセスは、人生においてとても重要な意味を持っています。心理学の多くの理論でも、統合(integration)は精神的成熟(maturity)に関わる重要なプロセスと考えられています(e.g., Jung, 1968; Erikson, 1968)。
異なる経験や価値観を排除するのではなく、自分の中で調和させていくことは、人がより深く自分自身を理解することにもつながります。
海外経験と心理カウンセリング
海外生活や帰国後の違和感、文化とアイデンティティの変化は、多くの人にとって大きな人生の転機になります。
こうした変化を一人で整理することが難しいと感じる場合、カウンセリングや心理カウンセリングが役立つことがあります。
心理カウンセリングでは、自分の経験や感じている違和感を言葉にしながら、価値観の変化やアイデンティティの揺らぎを丁寧に整理していきます。特に海外生活や国際的な環境で暮らしてきた人にとっては、文化の違いや人生経験を理解しているカウンセラーとの対話が、自分自身を理解する助けになることがあります。
海外生活は世界を広げる経験であると同時に、自分自身の輪郭や、本当の自分らしさとは何かを問い直す経験といえるでしょう。
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